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東京高等裁判所 平成元年(ネ)228号 判決 1989年9月18日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、当審における主張として次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示及び当審記録中の書証目録、証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人らの予備的抗弁

1  控訴人慶昭は、昭和四四年から三、四年間、江東区辰巳の都営アパートに居住した以外は、昭和二六年ころから義太郎の死亡した昭和五〇年以後も引き続いて現在まで、本件建物に居住している。

2  したがって、仮に、都営住宅の使用権の相続による承継について知事の許可が必要であるとしても、控訴人慶昭は、黙示の許可を受けているというべきである。

二  予備的抗弁に対する被控訴人の認否、反論

1  予備的抗弁1の事実は否認する。

控訴人慶昭は、昭和四四年一〇月一六日に本件建物から江東区辰巳の都営アパートに転居し、以後本件建物に居住したことはなかったが、鈴木秀夫(以下「秀夫」という。)が本件建物から退去した後である昭和六二年一〇月二六日に本件建物に不正に入居したものである。

2  同2の主張は争う。

控訴人慶昭は、右のとおり本件建物に居住を継続していた事実はないから、その使用承継人と認められないことはいうまでもないが、仮に居住継続の事実が存するとしても、知事は、秀夫を承継人として本件建物の使用承継を許可しているところ、使用名義人である義太郎と同居していた親族等のいずれを承継人とするかは知事の裁量に属する事柄であり、まして本件の場合には、秀夫は承継人として認められるべき要件を十分に満たしていたのであるから、知事の右の判断には何らの問題もない。

理由

当裁判所も、被控訴人の本訴請求はいずれも理由があり、これを認容すべきであると判断するものであるが、その理由は、控訴人らの予備的抗弁についての判断を次のとおり付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  成立に争いのない甲第一四、第一六号証、当審証人森直樹の証言により成立の認められる甲第二ないし第四号証、第八、第一七号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五ないし第七号証、第九号証(第五、第九号証については原本の存在に争いがない。)、右森証言及び当審における控訴人慶昭本人尋問の結果に、前記当事者間に争いのない事実(原判決理由一項)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  控訴人慶昭の祖父義太郎は、昭和二三年九月、被控訴人から本件建物を賃借した。義太郎の長男鈴木栄は、昭和二六年四月ころ、妻アキミ及び三人の子(長男秀夫、二男控訴人慶昭、長女恵美子)と共に本件建物に入居し、以来、栄一家は本件建物において生活してきた。

2  その後、秀夫及び控訴人慶昭は、結婚してそれぞれ子を儲け、引き続き本件建物に居住していた。しかし、本件建物が手狭になってきたことから、控訴人慶昭は、昭和四四年一〇月、妻ヒロ子及び二人の子(長男慶寛、二男栄治)と共に江東区辰巳の都営アパートに転居した(被控訴人慶昭は、昭和四四年一一月から昭和五五年一二月に本件建物所在地に住民登録を戻すまで、同所で住民登録をしていた。なお、右の都営アパートについては、同年一月、被控訴人により無断退去として明渡しを求める手続がなされた。)。

3  ところで、本件建物を含む都営弁天町二丁目第二住宅は老朽化が著しいことから、被控訴人は、かねて右住宅を老朽住宅撤去事業の対象に指定していたが、昭和六一年一〇月ころから、右住宅の住人に対し都営豊洲五丁目アパートヘの移転斡旋を開始した。

4  秀夫は、昭和六二年一月、被控訴人に対し、本件建物に居住しているのは同人及び妻綾子と二人の子(長男控訴人正人、長女香織)の四人であるとして、移転先住宅一戸の斡旋を申請したが、後に、他に控訴人慶昭、慶寛及び恵美子の三人も本件建物に居住しているとして、世帯を分離したうえ移転先住宅二戸を斡旋してもらいたいと申請してきた。

5  しかし、被控訴人の調査結果によれば、昭和六二年一月当時実際に本件建物に居住していたのは秀夫、綾子及び香織の三人にすぎなかった(被控訴人のもとに来庁した綾子及び恵美子は、この事実を認めていた。)ところから、被控訴人としては、世帯分離を認めず斡旋する住宅は一戸とすることを決定し、秀夫もこれを了承した。

6  その後、昭和六二年八月六日、本件建物の使用名義人義太郎の死亡に伴う使用権承継の手続が未了であったことから、秀夫より被控訴人に対し、同人において右使用権を承継したいとの申請がなされ、被控訴人(都知事)はこれを許可した。そして、秀夫は、被控訴人に対し、本件建物の返還届を提出し、同年一〇月下旬、綾子及び香織と共に移転先の住宅である都営豊洲五丁目アパートに転出した。

7  右3ないし6の被控訴人との折衝は、すべて秀夫が行い、控訴人慶昭は全くこれに関与しなかった。

二  控訴人らは、控訴人慶昭は、昭和四四年から三、四年間、江東区辰巳の都営アパートに居住した以外は、昭和二六年ころから引き続いて現在まで本件建物に居住していると主張し、当審における控訴人慶昭本人の供述中にはこれにそう部分がある。しかしながら、右5ないし7の認定事実及び控訴人らは控訴人慶昭が昭和六二年一〇月二六日ころ本件建物に入居したことを自認していた旨の当審証人森直樹の証言に照らすと、右の供述のうち少なくとも控訴人慶昭が最近も引き続いて本件建物に居住していたとの部分は、措信し得ない。

加えて、右6の認定事実のとおり、昭和六二年八月になって、本件建物の使用名義人義太郎の死亡に伴う使用権承継の手続が未了であったとして、被控訴人(都知事)から秀夫に対して承継の許可がなされている事実にもかんがみると、それ以前に、被控訴人(都知事)から控訴人慶昭に対し、黙示的にせよ承継の許可がなされていたと解することは困難であるといわなければならないし(右の秀夫に対する承継の許可の効力を否定すべき理由も見いだし得ない。)、まして、鈴木秀夫一家が本件建物から他に転居し、控訴人らが本件建物に居住するようになって以後、本訴提起までの間に、控訴人慶昭に対し、被控訴人(都知事)が黙示による承継の許可を与えたような徴表は全く存しない。

三  したがって、控訴人らの予備的抗弁も失当というべきである。

よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につ

いて民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

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